COLOR SAMPLE
ケニア、スーダンと国境を接するエチオピア西南部に住むボディ族の子供達は、小石を集めて色や模様をまとめ、分類し、その小石を牛に見立てた遊びを繰り返して飽きない。そして7、8歳なると彼等は自然界の複雑な色と模様に対して的確な言葉で表現できるようになるという。彼等のすばらしい能力の開発は、ボディ族の人々が自己の存在のよりどころとしている牛との深い生活から生まれてくる。
牛には一頭一頭に名前が与えられている。それらは主にその牛固有の色と模様にちなんだものが多いそうである。牛と共に喜び、牛と共に病むボディ族の人生。そんな日々の中から必然的に牛の毛の色と模様への認識が深まっていった。彼等はある特定の牛の10世代にもおよぶ系譜をたどることができるという。そこから導き出されたメンデルの法則に匹敵する色と模様の親族関係の図式。つまり彼等独自の遺伝観が形成されている。彼等の社会は一般的な意味での近代とは遠く離れていながら、牛の模様の観察とそれによる遺伝への認識は、我々の最も進んだ色彩学・遺伝学となんら遜色なく、ある部分では凌駕している事実も報告されている。
ボディ族の社会からの報告(東京大学出版会認知科学選書21認識と文化福井勝義著)は我々の想像をはるかに越えた色と模様のあやなす美しい社会のあることを我々に驚きを持って教えてくれる。
ある日思い立って豊橋市の海岸部から山までのあいだに露出した土砂を集めてみた。90cm×90cm、厚さ4cm、24種の土は、なんら手を加えずにそのまま提示したのにかかわらず、その豊かなマチュエールと色彩が、あらためて自然の素晴らしさを私に教えてくれた。この仕事はカラーサンプルと呼ぶことにした。