大地の感覚は日本では古来、風土と云う言葉の中に生きていた。
土や砂や岩から採った自然の最もプリミティブな素材が、古代エジプトや中国の壁画をはじめ、日本画の絵具の中でも生きてきた。
その日本画の素材は高級な天然群青や緑青から、黄土や朱土の様な天然土までと巾が広い。
味岡さんの作品は勿論抽象的な作風の現代絵画であるが、その素材は、すべて自分で採取した土や岩石ばかりだ。
日本画の私も、上京後なるべく安価な天然素材で描くことに腐心してきた点では共通項を持っている。
然し決定的に違うのは、味岡さんは自分で採取した土や砂だけで表現していることだ。そこに彼の美術家としての感性と、地質学者肌の理性との見事な調和がある。
その作品は自然土のもっている色層が微妙に響きあって重厚なマチエールを作り、見る側に安定感と、大地の暖かさと、やすらぎを与える。
限定された色相の単純、明快な配列で構成された最も純粋な絵画である。日頃、身辺で見過ごしている、一見粗末で何でもない素材が彼の感性と決断によって、明快な理念と豊かなインスピレーションを持った現代絵画に変貌する。
創造とは発見であることを改めて教えられる。
それにしても豊橋といふ地方都市に定住しながら、こんなに見事に美術とは何かを問いかける現代美術が生まれることは驚きである。
今年NICAF東京(第5回国際コンテンポラリーアートフェスティバル)会場で、各国の代表作家の中で断然光っていたことも、同じ三河人として誠に頼母しく思った。貴重な作家である。
私も、この刺激をうけて、少しでも新しい日本画の表現に開眼したいと願っている。